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愛染ぱらぱらと有栖川有栖『幻坂』

 大阪にも三大祭があるのです。6月30日から7月2日にかけての愛染堂勝鬘院、通称愛染さんでのお祭りが皮切り。この3日のうち必ず一度は雨が降る、というので「愛染ぱらぱら」なる言葉があるんですが、今年はもう降らないかな。

 

 有栖川有栖さんの短篇集『幻坂』にもこの愛染パラパラをテーマにした小説が収録されていました。

 

「このへんは伶人町というけど、伶人というのは四天王寺で雅楽を奏でた楽人のことや。楽人が住んでいた町やからそう呼んでる。地名だけは、地震や火事にも戦災にも耐えて残るんやな」

「愛染坂」角川文庫版47

 

 

 

 古い土地と響きあうようにあらわれる幽霊たちと、そこに住む人間たちの物語が綴られた作品集。有栖川さんが得意とする推理小説は、物語の冒頭で死んだ人間が、生きている者たちによってその死の謎を解かれていく過程を描く(あるいは死者が生者たちを支配する、と言い換えてもいい)もので、それは殺された人間の尊厳を、生者たちが取り戻していくという物語でもある。

 

 作家のまなざしは大阪の土地や言葉にも向けられている。
 

  『山崎豊子自作を語る[人生編]』(2012,新潮文庫)を読んでいたところ、大阪弁は

「商業語、商人言葉としては複雑豊富なニュアンスを持っている」「その代り、ラヴシーンと心理の独白の時には大阪弁の弱さを感じる(中略)手をさし伸べて女を抱擁しようとする時(中略)「おいでやす」で、まるで一杯飲屋の客引きのような恰好になってしまう」 

「小説のなかの大阪弁」『山崎豊子自作を語る[人生編]』

 

とあった。大阪弁、恋愛を描くには向いていない、というのが山崎豊子の認識なんですが、有栖川さんは大阪弁を効果的に用いています。

 

 ロマンス小説の女性翻訳家が、死んだ先輩に語りかける二人称の小説「真言坂」ではこんな感じ。

 

“I’ll leave if you prefer”

そこでキーを叩く手が止まりました。

お望みならば、ぼくは消えるよ。

そう訳せばいいだけのようでいて、しっくりときません。こんな文章で迷うなんて、本当にプロの翻訳家なのか、と中学生に嗤われそうです。

(中略)

――ぼく、行くわな。

そんな声が耳の奥で聞こえました。

(中略)どこかあなたと似ているのです。小さな仕草、言葉の選び方、女性と話す際の間といったものが。(中略)もしかすると「ええやんか」なんて訳文をうっかり直し忘れているかもしれません。

角川文庫版 129-131

 

 大阪七坂の怪異をテーマにしているのですが、怪談だけでなくゴーストハントものなども含まれているので楽しい。人の営みとともに、土地の名を記録すること。土地の記憶を残すことも文芸作品の大きな役割。

 

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