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観光化とその弊害 #中崎町

 以下の文章は、2018年8月下旬に関西「報道ランナー」の取材を受けた際にまとめたものである。9月4日に大阪にて猛威をふるった台風21号により関西国際空港が機能していない9月11日現在、韓国からのお客様はほとんどいなくなった。

 なんだかんだと書いているが、経済がまわっていないとぼやくこともできない、と実感している。

 

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 ご専門は? と聞かれるといまだに小さい声で「経済学ですが」と答えるほかない店主です。大学院を含め、若いころに7年費やしたのだから血肉です。

 

 先日、[外国人観光客増で住民困惑 レトロな街並み大阪・中崎町]という記事が日本経済新聞関西版に掲載されたようです。

 

 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34427140R20C18A8AC8000/

 

 曰く、

 

 

多くの外国人観光客が訪れる中、住民が困惑するのが写真撮影だ。築60年以上の民家で長く暮らす男性(64)は「自宅にスマートフォンのカメラを向けられることが増えた」と話す。写真撮影を禁じるステッカーを入り口に張っているが、SNS(交流サイト)の流行もあり、写真撮影に夢中の外国人の姿も。「落ち着いて暮らせない」とため息をつく。

 近隣の大阪市立扇町小では2017年ごろから「登下校中に知らない人に写真を撮られた」との相談が相次ぐ。昭和の街並みと児童のランドセルという構図が外国人に人気とみられ(後略)

 

 といった内容。思い当たることは多々あります。

 

 大きなポイントが二つあると思います。

 

 1.傍若無人な写真撮影の弊害は外国人特有のものではない/ヘイトと結びつけてはならない

 

 2.公害とは経済学でいう「外部不経済」の問題である。

 

 説明します。

 

 1.傍若無人な写真撮影の弊害は外国人特有のものではない/ヘイトと結びつけてはならない

 

 「旅の恥はかき捨て」とばかりに写真を撮りまくるのは、外国人観光客に限ったことではありません。10年くらい前は、mixiの「中崎町コミュニティ」でさかんに撮影マナーについて議論されていました。 

 

 1.-1 団塊世代

 当時は定年退職し、暇を持て余した団塊世代の人たちがデジタル一眼レフの撮影会などで中崎町を撮影してまわる、というのが多かったと記憶しています。当店ではハウスルールとして「(ア)店内にお客様がいる (イ)レンズが明らかに店に向いている 」場合には必ず「店内にお客様がいらっしゃいますので、撮影はやめてください」と大きな声で注意をしていました。そうされるとオジサンたちはちょっと拗ねたような顔をし、オバサンは苦笑いを見せたものです。

 最近はオジサンたちも年を重ねたせいか、数が減りました。しかしまだまだ集団心理に突き動かされる撮影ツアー隊は尽きないのだ。

  

 1.-2 個撮

 聞きなれない言葉かもしれませんが、個撮=個人撮影というものがあります(しかしいま個撮/個人撮影で検索すると、アダルト動画のサイトばかりがヒットしますね)。ようはモデルさん(プロ・アマ問わず)に依頼をして、ポートレートの撮影をするというものです。おそらく時間限定でお金を払っているからか、大きな機材を持ち、時にはフラッシュを炊いて店内で撮影をはじめる人たちもいます。これはすぐにNGを出します。「(ア)他のお客様が映り込む (イ)作品(著作権が発生するもの)が映り込む (ウ)その他くつろげないと店のスタッフが判断した」いずれかの場合がNGです。

 

 1.-3 外国人観光客

 最近は外国人観光客が増えています。アジアからの観光客が多いですが、時期によってはヨーロッパの人が多くなったり、オーストラリアの人ばかり、ということもあります。

 

 1.-3-1 言葉の問題

 特に言葉の問題もあり、厄介だな、と思いながらもどう注意したらいいのかが分からない、というのが問題の一つです。

 「そこで撮らないで=「ノーフォトゼア」 ●●(子供)を撮らないで=「ノーフォトオブ●●(チルドレン)」 それ(ら)を撮らないで=「ノーフォトイット(ノーフォトゼム)」」くらいをまず覚えて、声をかけるといいでしょう。

 

 1.-3-2 SNSの即時性と公開性の問題

 これが先に書いた団塊一眼レフ拗ね拗ねオジサンの時代との違いですね。おそらくインスタグラムに挙げられているのでしょうが、英語以外の言語を使っているアジア系の観光客がどんなタグで検索しているかがわからないので、チェックが難しい。

 ハングルだと「中崎町カフェ通り」=「나카자키초카페거리」というタグで画像が上がっていることが多いようです。

https://www.instagram.com/explore/tags/%EB%82%98%EC%B9%B4%EC%9E%90%ED%82%A4%EC%B4%88%EC%B9%B4%ED%8E%98%EA%B1%B0%EB%A6%AC/?hl=en

 

 当店の場合、近隣の民家の玄関先に立って撮影をされる場合があるので、閉店中は「NO PHOTO」と書いた紙を貼りだしています。開店中は注意をしに出ます。そこで撮らないで=ノーフォトゼア です。

 

 

 

 2.公害とは経済学でいう「外部不経済」の問題である。

 

 経済学では経済活動の当事者以外に影響を与える便益/費用などが発生することを「外部性」といいます。プラスに働く(=「外部経済」)ことも多いのですが、マイナスの場合もあります。典型的には公害などが「外部不経済」の例として挙げられます。

 経済の取引の当事者以外に損害が生じるものが外部不経済。たとえば工場が廃液を垂れ流すことによって周辺の漁師の漁獲高が減じてしまう、という場合、どう対処されるのでしょう?

 

 一般的には政府セクターなどが「公害税」などをその工場から徴収し、廃液の除去システムを設置したり、漁師への金銭的補償をすることになる、と説明されます。実際のところそうなる前に、生産量を抑えることで廃液を減らしつつ、廃液を少なくする方向に行くはずです。

 

 では中崎町の事例ではどうでしょうか?

 ここで経済の当事者は「中崎町の各ショップ」と「観光客」。不経済を被っているのは「住民」ですね。

 観光客は雨が降ってもいらっしゃるので、その恩恵を受けていないショップはほぼない、と言えるでしょう。やはり「各ショップ」がなんとかするべきですね。

「インバウンドは日本政府や大阪府市が一体となって推し進めてきたのだから、その対策もすべきだ」というのも当然ですが、その財源は筋から言うと「中崎町の各ショップ」が受益者負担するべきもの、となるでしょう。

 そもそも「レトロな佇まい」という住民が残してきた財産=外部経済に乗っかることで成立しているショップも多いわけです。

 各ショップが何らかのアクションを起こすべきだということは間違いありません。

 

 とはいえ、看板や貼り紙というのは野暮ですし、それが景観を悪化させることになると思います。

 

 提案

 1.声かけ 先ほど書いた通り、声掛けをするという方法です。

  そこで撮らないで=「ノーフォトゼア」 ●●(子供)を撮らないで=「ノーフォトオブ●●(チルドレン)」 それ(ら)を撮らないで=「ノーフォトイット(ノーフォトゼム)」

 

 団塊オジサンの一眼レフツアーのときも「下駄箱とか撮らんといたって」と声をかけてきました。一瞬意外そうな顔をしますが、聞き入れてくれるものです。

 

 余談ですが、劇作家の鴻上尚史が日本には村社会の名残の「世間=知っている人たち」と「社会=知らない人たち」とを分けて行動をする、と書かれています。電車で化粧をするのはそこが「社会」だからで、そこに同僚が乗り込んできたら「世間」となり、化粧をすることが気まずくなるだろう、と。

 

 知らない人に話しかける、というのは社会に参加することです。社会にむけてコミュニケイションをするのは難しい、と鴻上氏も書いています。大切なのは4つのステップだ、と。

 「1・相手のしたことを具体的に説明する」

 「2・その結果、あなたにどんな影響があったか、具体的に説明する」

 「3・現在の自分の感情を冷静に伝える」

 「4・冷静に自分の希望を語る」

 

 「社会」と「世間」――コミュニケイションの使い分け方 鴻上尚史

 https://nikkan-spa.jp/639418

 

  僕は先日、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を見に行きました。隣に三十代のカップルが座っていたのですが、女性が映画の途中で何度もスマホを見ました。最初は時間をチェックしていたようですが、五回目ぐらいから、とうとう、スマホの写真をじっと見始めました。

 相手は「社会」に住む人です。僕となんの関係もないですからね。

「社会」に向けたコミュニケイションの始まりです。

 ここでまず、一番やってはいけないのは「(スマホを)しまって下さい」とか「そんなことやめて下さい」という言葉です。「しまって下さい」は、いきなりの命令です。それは「世間」では成立する言葉ですが「社会」では成立しません。

 こういう時は、まず、「1・相手のしたことを具体的に説明する」。僕は横の女性に向けて「あの、隣でスマホを見られると」と言いました。

 次が「2・その結果、あなたにどんな影響があったか、具体的に説明する」。僕は、「まぶしくて、画面が見にくいんです」と伝えました。

 ここで、その女性は、ハッとしてスマホをしまってくれました。もし、ここでもしまわなければ、「3・現在の自分の感情を冷静に伝える」。冷静が大切です。「見にくくて、とても困っています」と、僕は伝えたでしょう。そして、「4・冷静に自分の希望を語る」。「すみませんが、上映中にスマホを見るのをやめていただけませんか」と伝えます。

「社会」に対する「交渉」はこの4つのステップが基本です。遅刻ばっかりする人に対して、「もう許さん!」とか「クビだあ!」とか、いきなり自分の感情や命令を伝えるのではなく、まず、具体的に相手に自分が何をしたかを伝えることが大切なのです。「また遅刻した!」ではなく「今日は15分遅れましたね。三日前は10分遅れました」と言うのです。そこから、やっと「交渉」が始まるのです。

 そして、自分にどんな影響があったかを具体的に語り、そして、自分の感情を冷静に語るのです。難しそうですが、結果的にはこうした方が事態は簡単に進むのです。

 

 

 子供や洗濯物にカメラを向ける外国人に咄嗟にこの4つのステップで話しかけるのは難しいでしょう。いきなりの禁止、にならざるを得ません。それにまあ、向うは「世間」の住人ではないのだし。外国でのディスコミュニケーションとして受け入れてもらうほかないのではないか。

 

 思えば団塊オジサンには「中にお客様がいらっしゃいますので、撮影はやめてもらえますか」と伝えてきました。これを4つのステップを踏まえるとすると

 「1・相手のしたことを具体的に説明する」=「撮影されていますね」

 「2・その結果、あなたにどんな影響があったか、具体的に説明する」=「中には写りたくないお客様もいます」

 「3・現在の自分の感情を冷静に伝える」=「わたしは困っています」

 「4・冷静に自分の希望を語る」=「撮影をやめてください」

ということになるでしょう。

 

 子供を撮影している外国人相手だと

 「1・相手のしたことを具体的に説明する」=「子供を撮っているね=you take photoes of them」

 「2・その結果、あなたにどんな影響があったか、具体的に説明する」=「子供が危険に巻き込まれる可能性がある=It may have children involved in crimes」

 「3・現在の自分の感情を冷静に伝える」=「わたしたちは困っている= We feel uneasy」

 「4・冷静に自分の希望を語る」=「撮影をやめて、画像も消してほしい=No photo of them ,delete the photoes ,please 」

 ということになるでしょうか。

 

 そして、英語が外国人みんなにつたわる真の国際共通語ならいいのですが……

 

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