暑い日が続いています。続く梅雨の雨で、夜が涼しくなるのが救いですね。
くるはらきみ個展「幼なごころ」開催中です。会期は17日(月)までです。
今回は人形が7点、絵画が13点を展示しています。人形が並ぶことで、くるはらさんの作品の魅力がより伝わります。
くるはらさんの人形から無垢な気配を感じる人は多いでしょう。しかしそれだけではなく、的確な描写力と、遊び心と、キリスト教美術・文学などの知識とが、背景として作品を支えています。
それは例えば、人形の表情にもあらわれます。
「ホロタイタネリ」(売約済)
宮沢賢治『タネリはたしかにいちにち噛んでいたようだった』から。白樺の皮をはぎ、藤蔓を噛んで裂くという子供の仕事。しかしタネリは春の陽気や、森の草木や動物に気もそぞろになって駆け出します。お母さんからの言いつけを心におきながらも、好奇心に落ち着かない少年の表情が見事に表現されています。
描き目なのでフラットな印象も受けるかもしれませんが、表情が多彩であることに気がつきます。
「少年若望(ヨハネ)」(売約済)
イエスが布教をはじめる前に、先んじて荒野を駆け、人々に回心を説いていたヨハネ。イエスは彼に出会い、川につけられて洗礼を受けます。少年らしい愛らしさだけではなく、この後の自分とイエスの過酷な運命を知るかのような覚悟と決意。
杖のような十字架はヨハネの象徴なのですが、イエスが十字架にかけられる前のそれは、禍々しい処刑器具なのです。一抹の寂しさをも感じさせる表情です。足下のスタンド台の深い青は、洗礼の川を表現しているのかもしれません。
「もぐらたたき」
一転してコミカルな「もぐらたたき」を題材にとった作品。木槌を手にしているので裁判官のようにも見えます。ユリ根を食べようとするモグラをやっつけようという少女の生真面目な顔。
絵画では表情の繊細さ、アトリビュートがより鮮明に……
「正太郎と魚」くるはらさんのおじいさんの思い出話をもとにした作品とのことですが、背後にマリアとイエスが描かれることで、正面の魚――キリスト教では信者であることを示します――に向かって手をあわせる少年が謎めいて見えます。水際のように青く描かれたテーブルは? 解釈することの楽しさと遊び心に満ちた作品。
「ひいひいお祖母さんのキミがよそに行った時、孫の正太郎が出されたお魚の裏側を食べたのを家の人に笑われてキミは二度とその家に行かなかった」という妙なエピソード。何故そんな話が私にまで伝わっているのとか、それとは別にお魚はキリスト教の象徴ですねなど思いながら描きました。「正太郎と魚」 pic.twitter.com/M84mVqivBG
— くるはらきみ (@kuruparadise) 2017年6月22日
全作品をレビューするのは難しく、ブログだけで種明かしをしていくのも野暮ですね。ぜひお運びください!